スタジオ35分の10月の展示は大同朋子写真展「Alt-Circus」を開催いたします。
スタジオ35分での大同の展示は2015年、2017年に続き、3度目の個展となります。
大同朋子はニューヨークを拠点に活動している写真家で、モノクロームに特化したスタイルを長年貫いています。日常の何気ない景色を異質な物として捉える眼差しは静かでとてもクールな印象を与えます。
今回は過去から現在にいたるまでの全作品を作家と有志と共に検証し、その膨大な写真群の中から選んだ16点を展示販売いたします。
なお、本展示にあたり写真研究者の小林美香さんに文章を寄稿して頂きました。大同朋子の作品の本質に迫っている素晴らしい文章になっていますので、ぜひお読みください。
Tomoko Daido Photography Exhibition 「Alt Circus」
2019年10月9日(水)~10月26日(土) 18:00~23:00
定休:日・月・火
観覧料:1ドリンクオーダー
<オープニングレセプション>
2019年10月9日(水)18:00〜23:00
大同 朋子
福井県小浜市出身。
90 年代後半よりアメリカ・ニューヨーク在住。
City College of New York にて写真を学び 2001 年にBA を修了。
http://www.tomokodaido.com
小林美香
写真研究者 東京工芸大学非常勤講師
写真に関連する記事の執筆や、翻訳などを行うほかに、レクチャー、ワークショップ、展覧会の企画などを手がける。
スタジオ35分
https://35fn.com
東京都中野区上高田5-47-8
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「幽霊の正体見たり枯尾花」という諺がある。恐れられている人や物の実態がつまらないものであることの喩えだが、無機物に生気が漂うのを感じたり、何かに見られているような気配を感じ、一瞬なりともゾクッと背筋が寒くなる体験は、誰しもが味わったことがあるだろう。冷静になってみれば何ということはないのだが、ある物事がふとした瞬間に気になって、時には怯えて素っ頓狂な声をあげ反応をしてしまう。そんな感覚を引き起こすものや時機は、束の間に意識を異次元に引き摺り込む穴のようなものと言えるかもしれない。
大同朋子は、意識的にも無意識的にも、そんな「穴」の在りかを探っているのではないだろうか、と思う。大同の写真には静けさと不穏さの混じり合った空気が漂い、時には禍々しさを湛えた光景として立ち現れている。陰惨な場面が写し取られているわけではないのだが、安易に触れたり、名づけたり、飼いならしたりすることのできない厄介なものが、日常の中に無造作に存在しているということを、彼女の写真は気づかせてくれる。
大同の写真を見ながら、異次元へと続く「穴」に思いを巡らせる。その「穴」とは、ブラックホールのような遠い宇宙の彼方にあるものではなく、自分が今いる場所のすぐそばに、あるいは地続きのどこかにあるものではないだろうか。舗装された路上のマンホール、木のうろ、岩山の洞窟、、、穴の大きさや深さはさまざまであり、それぞれの穴を穴に為らしめている物質がそこにはある。
仮に岩山の洞窟のような空間の入り口に立ち、その中に足を踏み入れようとしているとしよう。古来より洞窟の暗闇や静寂さは神秘的で、人に畏怖や畏敬の念を抱かせ、信仰の場にもなってきた。洞窟を前にして、大同もまたその空間に意識を引き込まれて見つめている。彼女の視線と意識は、洞窟の深さと暗闇だけにではなく、その岩肌の表面にも注がれている。彼女の視線は、洞窟の神秘性にどっぷりと耽溺しているのでもなく、岩肌の地層を地質学者のように即物的に精査するのでもない、どこか醒めた態度に裏打ちされている。
その洞窟の中で石を拾ったとしよう。地質学者であれば鉱物の成分と構成を調べるだろうし、何がしかの信仰を持つ人であれば、その石の中に神秘的な力が宿っていると感じるのかもしれない。大同はどうするだろうか。彼女はきっと、小石を手にして一言「変な石」と呟くだろう。ここで言う「変な」とは、英語で言う「absurd(不条理な、非合理な、馬鹿げた、滑稽な)」というニュアンスに近い。合理的に何かを把握しようとするのでもなく、見えない力を信じようとするのでもない、「absurd」と言い放つような態度、それが大同の写真の素性ではないだろうか。
写真研究家 小林 美香