大森克己スライドショー「山の音」

大森克己スライドショー「山の音」
2022 / 15分ループ・スライドビデオ上映

2023年1月18日(水)~1月28日(土)  17:00~22:00
定休日:日・月・火

[作家本人によるアナログ映写機による上映会]

1月18日(水)19:00~20:00
1月28日(土)19:00~20:00

スタジオ35分
東京都中野区上高田5-47-8

*新型コロナの感染状況や都合により営業日・時間の変更もありえますので、SNS等確認してからご来場ください。


あけましておめでとうございます。
新年最初のスタジオ35分は大森克己スライドショー「山の音」を開催します。
昨年、大森克己初となるエッセイ集『山の音』が刊行されました。
『山の音』刊行記念として本展では大森克己が近年取り組んでいるプロジェクト「sounds and things」のスライドショーのループ上映を行います。
初日18日(水)と最終日28日(土)には作家自身がアナログ映写機を操り、2000年代前半にポジフィルムで撮影された桜をモチーフとしたスライドショー「山の音」を開催します。
上映後にはスタジオ35分併設BARにて大森克己がバーテンダーとなり、山の音記念カクテルを提供いたします。
みなさまとお会い出来ることを楽しみにしています。


 交差点の横断歩道をピンク色の帽子を被った保育園児達が保母さんに守られて渡っている快晴の午前10時半。

 何気なく風景を見ていて突然にすべてのこと、この世界の仕組みの全部、時間と空間のありようが一瞬にしてわかる。いまは過去と未来と連続していて、未来から見た現在と、過去から見た現在が何層にも重なっている。ここにあるものはどこからかやってきて、いまここにないものもどこかで生まれている。目の前の保育園児の足音を、ボクはかつて確かに聴いて、そしてそれは未来から聴こえてくる音でもある。

 交差点を渡りきってボクの視界の後方に去って行く子どもたち。次に彼らに出会うとき、ボクも彼らも別の人になっているだろう。

北に向かって5分ほど歩き続け、駅のロータリーの信号の手前を左折して、ショッピングモールの中のATMで現金を引き出し、コーヒーを買って、改札口を抜け、東京行きの電車に乗り込む頃には、すっかりボクは別人になっていて、ほとんどすべてのことを忘れてしまって、また新しい景色に出会う。

 ボクはいまここで何かを見ている。ここは京都ではなく、佐渡ではなく、パリでもなく、いまここである。

 ポケットからスマートフォンを取り出し、動き続ける車窓から写真を撮る。海の手前に鉄橋が流れ、逆光の奥に船が浮かぶ。この海はアドリア海と繋がっている。しかし別の名前で存在し、カリブ海と繋がっている。

 さまざまな光の加法混合。どんどん透明に、軽くなっていくいまここ。同時に記憶の減法混合によって漆黒の闇に近づいて行く魂。せめぎ合うふたつの力。RGBとCMYK。静止と流転。逆転と転回。圧縮と解凍。

 車両の逆方向の北向きの窓からは東京スカイツリーの展望台が見え、望遠鏡でこちらを覗いているあなたと眼が合って、あなたがいま、瞬きしているのがわかる。ハローハローハロー。

大森克己『山の音』より「いま、何が見える?」


大森克己

1963年神戸生まれ。1994年キヤノン写真新世紀優秀賞受賞。国内外での写真展や写真集を通じて作品を発表。2013年グループ展「日本の新進作家vol.12 路上から世界を変えていく」(東京都写真美術館)に参加。2014年に個展「sounds and things」、2015年に個展「 “when the memory leaves you” – sounds and things vol.2」をMEMにて開催する。近年のグループ展に「Gardens of the World」(Rietberg Museum、スイス、2016)、「語りの複数性」(東京都公園通りギャラリー、2021年)など。代表的な写真集に「サルサ・ガムテープ」(1998 リトルモア)、「encounter」(2005 マッチアンドカンパニー)、「サナヨラ」(2006 愛育社)、「Cherryblossoms」(2007 リトルモア)、 「STARS AND STRIPES」(2009 マッチアンドカンパニー)、「incarnation」(2009 マッチアンドカンパニー)、「すべては初めて起こる」(2011 マッチアンドカンパニー)など。2022年7月に初の文章のみの単著となるエッセイ集『山の音』をプレジデント社から刊行。