阿部淳 「黒白ノート」 /  Abe Jun 「Kokubyaku note」

阿部淳 「黒白ノート」 /  Abe Jun 「Kokubyaku note」

2024年3月20日(水)~5月4日(土) 16:00 – 22:00 ※会期延長
定休日:日・月・火
*1ドリンクオーダー

<オープニングレセプション>
3月20日(水)18:00 – 21:00

[前期]
「黒白ノート 2」  2024年 3月20日(水)-4月6日 (土)   16:00~22:00
[後期]
「黒白ノート 3」  2024年 4月10日(水)-5月4日(土)  16:00~22:00 ※会期延長

スタジオ35分
東京都中野区上高田5-47-8


阿部淳は1979年より大阪の街を中心に路上で撮影を続けています。本展示は写真集「黒白ノート」のシリーズから80年代と90年代に撮影された「黒白ノート2」と「黒白ノート3」を前期・後期に分けて展示をいたします。

展示作品は写真集「黒白ノート2」と「黒白ノート3」の原稿として使用されたオリジナルプリントとなります。東京では11年ぶりとなる個展となります。阿部淳の写真世界をご堪能ください。


自分の写真についての説明を求められると、いつも、「現実の現実感と夢の現実感が重なったとことで、シャッターを押す。」というようなことを言っている。

夢というのは、夜眠っているときに見る夢で、自分の脳の中で起きているのに、自分の思うようにできないので、自分の中に他者がいると感じてしまう。この自分の中の他者性と外の世界の他者性がシンクロしたところで写真を撮っている。

もうひとつよく話していることは、「写真は、いろいろな見方ができ、形や質感、色、光線状態、社会的意味、対象との関係性、などなどが一枚の写真に重なっていて、それを横から見るとビルのように階層上になっている。例えば、2階に質感のフロアー、5階に社会的意味のフロアーという風に、個別の写真によってその階の密度は異なるが、このように分布している。それをビルの屋上の上空から見たのが、一枚のプリントである。あまり一つのフロアーだけで展開させずに、できる限り多くのフロアーを開放して写真を撮るように努めている。」

阿部 淳



阿部淳 / Abe Jun

<略歴>
1955 大阪生まれ
1981 大阪写真専門学校(現ビジュアルアーツ専門学校・大阪)卒業
1982 ダンスグループ白虎社の映像スタッフとして各国巡行(〜1994)
1983 「写真塾」を運営(〜1986)
1986 自主運営ギャラリー「リトル・ギャラリー」スタッフ(〜1988)
2002 ビジュアルアーツ専門学校・大阪 教員
2006 VACUUM PRESS 出版運営
2013 ハッテンギャラリー(現 VACUUM GALLERY)参加
2013 第25回「写真の会」受賞
2014 FOTO ISTANBUL 参加
2018 第二次「地平」参加

<写真展>
1989 『市民』 『CREATURES』ピクチャーフォトスペース/大阪
1997 『CITIZENS』 『迷子論』 COSMO GALLERY/大阪
1998 『無限遠点』 COSMO GALLERY/大阪
2002 『黒白ノート』 ビジュアルアーツギャラリー・大阪
2004 『CITY』 ビジュアルアーツギャラリー東京/大阪
2006 『黒白ノート・箱』 gallery10:06/大阪
2012 『市民 / 1982』 Gallery Niepce/東京
   『市民』The Third Gallery Aya/大阪
2013 『市民、黒白ノート、黒白ノート2』 写真の会賞 PLACE M/東京
2016 『1981』ギャラリー722/岡山 ビジュアルアーツギャラリー・大阪
2017 『写真書簡』The Third Gallery Aya/大阪
2018 『白虎社』Third Gallery Aya/大阪

<写真集>
1989 『CREATURES』 ビレッジプレス
1993 『HORIZON』 共著/大阪写真専門学校HORIZON編集室
2007 『大阪』 VACUUM PRESS
2009 『市民』 VACUUM PRESS
2010 『黒白ノート』 VACUUM PRESS
2011 『マニラ』 VACUUM PRESS
2012 『黒白ノート・2』VACUUM PRESS
2013 『2001』VACUUM PRESS
2014 『プサン』VACUUM PRESS
2015 『1981』VACUUM PRESS
2016 『1981<コウベ>』VACUUM PRESS
2017 『ニューヨーク』VACUUM PRESS
2018 『2016』VACUUM PRESS
2019 『市民社会』 VACUUM PRESS
2020 『2002』『2002 ナハ・コザ』VACUUMPRES
2021 『黒白ノート』VACUUM PRESS  
2022 『1995』VACUUM PRESS


「阿部先生」

僕は経歴に「大阪ビジュアルアーツ写真学科夜間部卒」と書いてない。
書いてない割に、真面目に2年間通っていたクラスの担任が、
「阿部先生」だった。

とりあえず写真をすることだけは決めて学校に入ったが、
まだ何をどうしたいのか、全くわからない手探りの状態。
時代はガーリーフォト全盛で、カラフルなカラー写真を撮るクラスの女子も多かったが、
当時の大阪ビジュアルアーツは、モノクロの硬派な写真が主流の校風、
他にもれず、僕も大阪の街を撮りだした。

「才能はあるだろう」と、裏付けのない自信を持って始めたものの、
出来てくる写真は凡才そのもので、ぱんぱんだった自信もいつしかしぼみ、
すぐさま壁にぶつかった僕は、先生に相談した。
「なんか、同じような場所で、同じ写真撮ってるみたいで、よくわからないというか…」
と、よく分からない質問に、先生は少し考えて言った。
「加瀬くん、明日ここに学校ないかもしれへんよ」
若かった僕は、予想を大きく超えた答えに、
ぽかーんとしたが、「この人は信用していい」と思った。

学校も始まって半年も経つと、休日ロケの授業にくるのは、
僕と6つ年上の佐藤くんのふたりだけになった。
このロケの授業とは、各自好きに写真を撮って、集合場所の喫茶店に集まる、というもの。
「どう、撮れた?」先生は、ぱかぱかタバコを吸っていた。
フイルム一本しか撮れてないのに「3本ぐらいです」と水増しして答える。
先生はいつも20本以上撮ってた。
「どうやったらそんなに撮れんねん」
と思って、僕は先生の後をつけてみた。

天王寺から四天王寺に向かう商店街、
20m程先を歩く先生が、パチンコ屋のガラス戸に向かってシャッターをきると、
突如、くろぐろとした穴がぽっかりと空いた。
穴はみるみるうちに大きくなって、
あっという間に先生を頭から飲み込むと、跡形もなく消えた。
「あの穴、先生だけが行ける異次元の入り口とちゃうか?
ほんで、あっちからこっち、こっちからあっちって撮ってんねんや。
そうやないと、あんな写真撮られへんもん。せやせや」
とひとり納得した。

30年が経った。僕はまだ写真を続けている。
学生の時より、阿部先生の作品の面白さに圧倒されるのは、
僕も「違いのわかる大人になった」ということだろう。
また、何度見ても飽きないのは、超人的なスナップ力もさることながら、
「タイトルの簡潔さ」「一切テキストを入れない」でも分かるように、
写真がテーマやメッセージからいつも自由だからだ。
おかげで僕は、写真集にぽっかりあいた穴に頭を突っ込んで、
自分の目で人や街に出会うことができる。
集合場所の喫茶店で、阿部先生と会えるのを楽しみに。

加瀬健太郎(写真家)
https://kasekentaro.com